冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
月夜に響いた銃声
「“綾乃”ちゃーん、これお願いできる〜?」
「はい、只今〜!」
優ちゃんという同僚さんから金属製のトングを受け取る。
黄金色の油がパチパチッと弾けて、中で揚げられていくカレーパンが本当に美味しそうだ。
店内は、様々なパンの美味しい匂いに満ちている。
病院内にあるこのパン屋さんで働き始めて、早2か月。
ここは普通の大学病院だけど、わたしのお父さんが長らく入院している病院でもあった。
麗仁くんの前から姿を消してもう2か月以上が経過していた。
前住んでいた家は売り払って、そのお金でまた新たに上荒谷病院の近くのおんぼろアパートの部屋を借りた。
家賃は月4万円。
高校生からしたらちょっと高いけど、頑張ってバイト代を稼げばギリギリ暮らしていけるくらい。
そのバイト代を、わたしはここ、BASIC BAKERYというパン屋さんで、稼いでいる。