冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
バスケットを両腕に抱えて、沢山のパンが並ぶ販売スペースまで運んだ。
「わぁ〜〜!美味しそうに揚げられてるじゃない!新人ちゃんなのにもう期待の星ねっ」
「ふふ、褒めすぎです店長」
大沢 心さんという可愛い名前の女性が、このパン屋の店長さん。
いつも柔らかい物腰で、新人でただのアルバイトのわたしにもこうして親切にしてくれる優しい人。
───“親切で優しい”
この言葉が浮かぶと、決まってわたしの脳内を過るある人の姿が今日も見えた。
「麗仁くん……、」
「…ん?どうしたの、何か言った?」
わたしの呟き声が聞こえたのか、不思議そうに首を傾げて聞き返す心さん。
いけないいけない……っ、今は仕事に集中しないと!
それに、わざわざ心配をかけさせるのも何だか申し訳ない。
「な、なんでもないです。これ、あそこに置いてきますね」