冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
……まあ、このことは本人には言わないけどね。
「……麗仁くん。麗仁くんのいる所に、行っちゃだめですか」
スマホを耳に当てた状態で、そう訊ねた。
わたしからそんなことを訊かれるとは予想していなかったであろう麗仁くんの瞳が、僅かに見開かれる。
だけど、それはすぐに優しく細められて、《うん》と耳元で優しい声がした。
駄目なことをしている。今までの努力が水の泡になる。
そんなことは、もう分かっている。
その上で、わたしはあの人の側に行きたいと願ってしまったのだ。
──もう、どうしようもない。
部屋の扉を開け、アパートの廊下を小走りで駆け抜ける。
わたしは今、自分の足で夜の世界に足を踏み入れた。
もう、逃げられない。
錆びれた階段を駆け下りて、麗仁くんがいる場所まで行く。
……その時、だった。