冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。


わたしの手に、足に、生暖かい何かが流れているから。


頬にかさりと柔らかい黒髪が触れる。


ほっそりとした、だけど程よい筋肉がついている体つきに、わたしは全てを悟ってしまう。


わたしは、撃たれてなんかいなかった。どんどんはっきりしていく視界の中、それを知る。


わたしを庇ったせいで、今死にそうになっている人がいる。それは、わたしが何よりも誰よりも大切にしたい人で……。



「麗仁、くん……っ!!」


どうしてっ、どうしてっ、……どうして!!


どうして麗仁くんが、わたしなんかを庇ったりするのよ……〜〜っ!!

冷たすぎる体温の持ち主の血は、怖いほどに熱くて。

残酷な現実を、肌に突きつけられている気がした。


と、とにかく救急車を呼ばなきゃ……っ。

< 279 / 399 >

この作品をシェア

pagetop