冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
《その声は……、七瀬彩夏様、ですね。一体なぜあなたが飛鳥馬様のスマホを…》
「仁科さんっ!!お願いしますっ、助けてください……!!麗仁くんが、大変なんです……ッ」
《どう、したのですか…、飛鳥馬様に一体何があったと言うのですか!!》
今まで聞いたことがなかった。
仁科さんの、こんなにも焦り倒した大きな声。
いつも物静かで、近寄りがたい冷徹な雰囲気を醸し出していた仁科さんが、今、わたしと同じ心を持った人間のように思えた。
「銃に、……っ、わたしを庇ったせいで、銃に撃たれたんです!!本当に、ごめんなさっ……、なんとお詫びしていいか、」
《っ……、!いいですか、七瀬様。今は謝っている場合ではありません。
すぐに、私が手はずを整えますので、七瀬様はそこで飛鳥馬様の身の安全を確保しておいてください》
「……っはい、はい。よろしくお願いします……っ、麗仁くんを、助けてくださいっ!」
涙がぼろぼろと溢れ、頬を流れ落ちていく。
今起きていることが現実なのか夢なのか、そんな境い目さえ混乱した頭では分からなくなってきた。
こんな悪夢、できることなら早く覚めて欲しい──。
お願いだから……。