冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。


一体どこまで走ってきたのだろう。


もう何日も深い深い闇を彷徨っていたように思える。



「あや、ちゃん……」



愛しい子の名前を呼ぶ。

会いたい。会いたくて仕方がない。


何日も、何週間も街中をくまなく探し回ったのに、見つけられなかった。

触れるだけのキスを残して、おれの前から消えたあやちゃん。


やっと触れられたと思った瞬間、おれの幸せはどこか遠くへと消え去ってしまう。


“おれを不幸にさせてしまうから”


そんな理由で、おれから逃げ続けるその子は、何も知らない。


おれの幸せは、君の存在があってこそなんだってこと。


君の幸せの先に、幸せだと感じる瞬間の延長線上に、おれがいて欲しいって思うのは、さすがにわがままかな。

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