冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。


『いや、その違くて……飛鳥馬様は、わたしの名前、知っていたんだなぁって』


その顔が、綻ぶ表情が、少しだけ嬉しそうで。


『……そんなの当たり前でしょ』



その時だけは、なぜか素直になれた。

あやちゃんはそんなおれの言葉により一層嬉しそうな顔をする。そんな顔を見られるのなら、もっと本音を打ち明けようか。



『じゃ、じゃあ……わたしもっ、りとくんって呼びます!』


……おれのことを、名前で呼んでほしいっていう願いを。


『は、……?』

『…っぁ、ごめんなさい……。出しゃばりすぎました』


まさか、おれが頼む前に相手がその願いを叶えてくれるとは思わないだろ。


『───おれはおれの名前がきらいだ』


打ち明けたい。己の心の内を。

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