冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
わたしを安心させるための言葉は、自分自身に言い聞かせているようにも聞こえた。
「……っ、はい、」
仁科さんはそんなわたしに優しく微笑みを返す。
仁科さんは、相手が自分の敵じゃないと分かれば、こんなにも親切に接することが出来る、本当は温かい人。
──それから、約2時間が経過した。
もうすっかりと深夜を周り、夜が更けてきた頃。
ようやく、オペ室の「手術中」の赤いランプが静かに消えた。
その大きな自動開閉扉から麗仁くんの執刀医がやって来る。
その光景をわたしはどこかぼんやりとした面持ちで見つめていた。はっきりと定まらなかった焦点は、執刀医が目の前に来て足を止めたタイミングで、正常になった。
「───…手術は無事に成功いたしました。ですがまだ意識が戻っておらず、安心できる状態ではないので、これから安静な状態で病室待機を願います」