冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
この世のものとは思えないほどに整ったお顔をしたお方の笑った表情は、世界で一番尊くて、儚いものだと、
その時わたしは初めて飛鳥馬様に対して、まるで神に抱くような敬意の気持ちを抱いた。
「お嬢さん、もう行ってもいいよ。突然引き止めて、勝手にキスしちゃってごめんね」
両眉を下げて、申し訳なさそうにそう言った飛鳥馬様。
その言葉にまたも目を見開いたわたしだったけど、別にこの人だって人間なのだから謝れないわけじゃない。
ただ、謝るという立場にいることが少ないお方だからだろう。
そう思いながら、少しだけ震えていた手をもう1つの手で抑えながら、飛鳥馬様に丁寧な御辞儀をしてから、背を向けた。
これでもう本当に、わたしを取り巻いていた波乱は終わった───。