冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
「……彩夏が小さい時にね、お父さんの病気の症状が急激に酷くなったことがあるの。その時の私はまだ生計を立てられるほど稼げていなくて、やみくもにお金を手に入れようとした結果が麗仁くんと彩夏の婚約よ」
まだ何か納得できないような顔ね。
そう言って、お母さんは続きを話してくれた。
夜の世界で働いていたお母さんは、飛鳥馬家とどうにか繋がろうとしたらそれは出来る。
無理なのを承知で飛鳥馬家に婚約を申し入れたから、了承の返事が来た時は本当に驚いたという。
なぜ飛鳥馬家は七瀬家の婚約を受け入れたのか。
そう質問したけど、お母さんは言葉を濁すだけで、何か明確な返事を返してくれることはなかった。
そうして暫く沈黙が続いていると、
手の中にあった封筒がカサリと音を立てた。