冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
「“心臓病”って言ったら分かるかしら」
────心臓病。
その単語は、わたしにはあまりにも無縁で、馴染のない言葉だった。
「心臓病って……?」
「……麗仁くんの場合は“急性心筋梗塞”の発病でね、その致死率は10%ほど……なの」
難しい単語が右から左に流れていく。
と同時に、なぜ飛鳥馬家が七瀬家の婚約を受け入れたのかの理由にも説明がついた。
「麗仁くんは、小さい頃にその治療をしたの。だけど、今になって再発しただなんて……、」
お母さんの声も震えていた。
その目には涙が浮かんでいて、わたしの悲しみは膨れ上がる。
「───わたし、麗仁くんのところに行く」
「……っえ?なに、言ってるの彩夏」
とにかく、今すぐに行かなきゃ。