冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
これ以上最悪な事態にはならない。そう信じて疑わなかった。暖かな空気が緊張によって冷え切っていた心に触れて、安心したようにしてそれが解けていった。
わたしと飛鳥馬様の距離がどんどん遠くなっていく。わたしは後ろを振り返ることなく、真っ直ぐに学校への道のりを歩いた。
だから、気づかなかった。
気づけなかった。
わたしの遠のいていく背中を、飛鳥馬様が何かを深く考えるかのようにじっと見つめ、ニヤリと怪しく唇の片端を上げていたことになんて───。
この時は、気づくことさえ出来なかったんだ。
もう、終わったと思っていた。わたしの身に起こった不運の連鎖は、今日ここで幕を閉じたと思っていた。
────だけど。
本当の波乱は、今、ここから始まる。