冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。


だけど、不思議なことに、庶民の家から1度だけそんなハナシを受け持ったことがあった。


それは、七瀬彩夏がおれの許嫁になるということだった。


……別に将来なんかどうでもいい。

常にそう思っていたおれは、難なく両親からの命令を受け入れた。


最初は、あやちゃんのことを何とも思っていなかった。


だけど、同じ時を過ごしていく内に、閉ざされたおれの心は少しずつ開いていったんだ。


純粋無垢なあやちゃんに、いつしか好意を抱くようになっていた。


だけど、おれが成長していくにつれていつの間にかあやちゃんはおれの前からいなくなっていた。


『父上、七瀬彩夏さんの居場所を知っていますか』


おれの質問に、父上はため息を零すだけだった。


だから、きっとあやちゃんにも見捨てられたんだろうと思っていた。

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