冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
おれという人間があやちゃんを幸せにできるのか、幼いなりに疑っていたんだろう。
昔のおれは、そこまで考えることが出来なかったけれど、どこかであやちゃんを安心させるような言葉を吐いた気がする。
『おれはもう、お前しか見てねーんだけど』
『わ、わたしもりとくんを見てるよ?今』
どこか噛み合わない会話。
幼い頃のあやちゃんは、驚くほどに鈍感だった。
『───…っだから早く、おれに溺れろ』
そう言って、おれはあやちゃんを不器用に抱きしめた。
しばらくあやちゃんは何も言わずにいたから、おれはどんどん焦ってきて。
命令口調でしか言えない自分が悔しくて。
強く唇を噛んだ時───
『ふふっ、じゃああやはもうとっくにりとくんに溺れてる!』
その言葉に、震え上がるほどの喜びを感じた。
『……じゃあ、もう一生離してあげられないけど、いい?』
『もちろん……っ!』
あやちゃんの笑顔は、冷たい皇神居を一気に温かくして、同時におれの冷え切った心も温かくしてくれた。
だからさ……