冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
いくら伊吹くんのお願いだとしても、常日頃からスマホをずっと触っているわけではないわたしにそんな神業できるのかな……っ?
きっと出来るわけない……。
そういう考えに至ったわたしだけど、伊吹くんにはそれとは正反対の返事をした。
「わ、分かった……!絶対に出るね」
「ん。いい子」
伊吹くんは蕩けそうになるくらい嬉しそうな表情を浮かべ、口角を緩めた。
伊吹くんの大きくて温かな手がわたしの頭を撫でる。
伊吹くんの瞳はいつも通り優しい色をしていて、穏やかな雰囲気を感じるけれど、……どこか違和感を感じるようになったのはつい最近。
ふと、見上げた時の伊吹くんの表情が少しだけ怖い。そのことに気づけたのは、本当につい“最近”のこと。
他の人よりも色素が薄く、光がある伊吹くんの茶色い瞳が、まるで感情をなくしたかのように真っ黒になって見える時がある。
「……っ、い、伊吹くん。わたし、やっぱり…」