冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
「彩夏」
“やっぱり3コール以内に出るのは難しいかもしれない”
そう言おうとしたけれど、その言葉の続きを伊吹くんの少し強めな声によって遮られた。
「……俺からの電話にすぐに出られないなんて、言わないよね。彩夏はそんなにワルい子じゃないでしょ」
な、なんだか……っ、伊吹くんが怖いっ。
最近感じていた違和感の正体。それは、間違いなく今伊吹くんが放った言葉と、背後に見えるおぞましいドス黒い圧。
伊吹くんの優しい瞳が、今は優しくない……。完全に光を失って、どこまでも真っ黒な空洞の瞳に捕らえられた気がした。
「い、伊吹くん……っ?」
「答えて。俺からの電話にすぐ出られない理由なんかあるの?そんなもんないよね」
伊吹くんは、いくら怒ったとしてもその感情を表に出すような人ではない。丁寧な言葉遣いも、いつもと変わらない。
……それでも。
今の伊吹くんは、どこからどう見ても異常だよ……っ。付き合いたての頃のいつも優しい伊吹くんとは違うよ。