冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
『あの…っ、俺、七瀬彩夏さんのことが好きです……!もしよかったら俺と…』
『え、えっとごめんなさい…っ!!わたし、好きな人がいるので!!』
“彼氏がいる”とは言わず、“好きな人がいる”と言った。それには大きな理由があるのだけど、それはまたのお話。
顔を真っ赤にさせて一生懸命告白してくれた子の言葉を遮って、それだけを伝えるとわたしは一目散にその場から逃げ出した。
彼の口から“わたし”を“好き”だと吐き出された瞬間から、心臓の動悸が収まらなくて死にかけていたからだ。
告白ってきっととても勇気のいることだと思うし、その子のことを思えばわたしのあの無下にするような行動はめちゃくちゃ最低だったと、今猛烈に反省中である。
はぁ……、今日も『ありがとう』さえ言えなかった。
だけど、それでも、私は自分の心を殺してでも、この人の言うことには全て、従わなくちゃいけないんだ。
こんなことを言ったらまるで御主人様と下僕のように聞こえるけれど、別にそういう関係なわけじゃない。昇降口に向かいながら、そっと伊吹くんの横顔を盗み見る。
伊吹くん───、私たちはちゃんと、そういう関係になれてるよね?