冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。


そう言えばわたし、……美結ちゃんが伊吹くんと話してるとこ見ても、嫉妬しなかったんだ。


そのことに、どれだけ絶望したことか。



「伊吹くんのこと、まだ好きでいたいのに……、」



大好きだったはずの彼氏を怖いと思ってしまっていた時点で、わたしの幸せは終わりを告げていたのだ。


それなのに、初めての恋にずるずると未練がましくしがみついて、伊吹くんに多大な期待を寄せてしまっていたのはわたし。


幸せという言葉に貪欲になりすぎて、自ら首を絞めてしまったのも、わたしのせい。

だから、伊吹くんは何にも悪くない。


───そう思えるわたしでいたかった。


今夜だけは、月明かりに照らされることもないわたしの心の内を、激しい雨風が消し去ってくれる。


わたしの汚い心を、綺麗さっぱり洗い流してくれる。


伊吹くんに早く伝えないと。

わたしの決心を、恐れることなく正直に言わないと。


電源を落としたまま机の上に無造作に置いてあるスマホに目を向ける。

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