冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。


電源を落としていなければ、きっと今頃何度も着信がかかってきているであろうはずのスマホ。


実は今日、わたしは伊吹くんにひと言も伝えずに勝手に1人で家まで帰ったのだ。

それは決して、許されないこと。


伊吹くんという人間の中のルールにおいて、わたしは伊吹くんと毎日一緒に帰らなければならないという暗黙の了解があった。


絶対に破ってはいけない伊吹くんの中での決まりを、わたしは今日ついに破ってしまった。


もうそのことだけで頭が割れそうになるくらい重苦しいのに、わたしがもっと頭を抱えたくなるくらい憂鬱なことが、これから始まろうとしている。


上手く、やり過ごせるだろうか……。


あのお方の機嫌を損ねてしまわないように、言葉も行動も慎まなくちゃ……。


現時刻20時38分。

あのお方の迎えが来るまで、あと22分。


時間はわたしの意に逆らって、刻々と時を刻んでいる。

21時が、来ないでほしい。またあの身の毛がよだつほどの恐怖を味わいたくないと思う自分がいる。

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