冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
「……そう?それならいいんだけど、気をつけて帰ってね。また明日」
心配そうな顔をしながらも、伊吹くんは優しい笑顔でポンポンとわたしの頭を撫でた。
伊吹くんの大きな手の感触が心地よくて、思わず目を細める。
機嫌が良い時の伊吹くんはほんとうに優しいなあ……。
「伊吹くん、また明日……!」
「うん、またね」
わたしの頭から伊吹くんの体温が離れていく。だけど、変わりに唇にそっと触れた柔らかくて優しい温かさに胸がいっぱいになる。
深く重ねるわけでもない別れ際のキスを交わして、今度こそ伊吹くんはわたしに背を向けて歩き出した。
わたしはその背中が見えなくなるまで見送った。
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幸せじゃないと言ったらウソになる。
だけど、これで本当に幸せなのかと聞かれたら───その時わたしは一体何と答えるのだろう。