冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。


温め終わったら、それをトレーに乗せて、水を入れたコップやスプーンも乗せて、机まで運ぶ。

早く食べないと……。

迎えが来ちゃう。


椅子を引いて、その上に腰を下ろし、手を合わせて「…いただきます」と小さく呟いた。

無言で手だけを動かし、カレーを口に運ぶ。元々食べる量が少なかったおかげで、僅か5分で食べ終わることが出来た。


コップとお皿、スプーンをささっと洗い終えて、わたしはリビングを後にした。


洗面所で歯磨きをして、身なりを整える。さっきまで寝ていたせいで少し乱れてしまった長い髪を櫛でとかして、一応準備は完了した。


洗面所に置かれた小さな時計を見ると、時刻はもうすぐで21時に差し掛かろうとしていた。


───あと少しで、飛鳥馬様が直々にわたしの家までお迎えに上がりにいらっしゃる。


じっと息を潜めて、深く深呼吸をする。

これから起こるであろうことを考えただけで、今すぐここから逃げ出したい気分に襲われるけれど、それは決して許されないこと。


薄い壁の向こうから、バサバサっと音を立てて飛んでいく鳥の羽音が聞こえてきた。

< 92 / 399 >

この作品をシェア

pagetop