冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
怖い、こわいよ……。
青紫色に染まった唇がわなわなと震えて、手足さえもこきざみに震える。
ああ、ああ。今すぐにこの世界から消える方法があるのなら、それに縋りたいよ。
飛鳥馬麗仁というお方が、どんなに冷酷で、残酷で、卑劣な人間なのか、ウワサで聞く限りは最悪だ。
人々は皆、彼のことを神よりも上の存在だと言う。
神よりも美しく、麗しく、尊いと崇め奉る。
みんなは知らない。気づかない。
神よりも尊いお方だと信じ続けるこの街の民を支配している人間こそが、飛鳥馬様だということを。
気づかない、フリをしている。
人間は皆、自分に都合の悪いことは見ないように、そして考えないようにしようとする習性がある。
それと同じだ。
飛鳥馬様という、名前だけにも物凄い価値があるお方は絶対にわたしたちを守ってくれる神様だと信じていないと、やっていられないのだ。