冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
飛鳥馬様の存在はわたしたち東ノ街の住民にとって得だと、嘘でも信じていないと、わたしたちの人生は終わるのだ。
だって、わたしたちは生まれた瞬間から全ての個人情報を霜蘭花に提示しているのだから。
毎日何かに見張られ、言葉では言い表せないほどの何か大きすぎるものに支配されているのを感じながら生きていかねばならないのだから。
そんな恐怖に襲われたまま生活するのは、御免だから。
───だからこの街の住民のほとんどが、飛鳥馬様は素晴らしいお方だと、自分たちをお守りくださる神様だと、洗脳されたように信じて疑わないのだ。
なんて、残酷なことなのだろう。
なんて、残虐な仕組みなのだろう。
生まれたその瞬間から、わたしたちは自由を奪い取られる。この街で生まれたことによって、2度と檻から出られない。
息もできない毎日が続いていく。
わたしは覚悟を決めて、強く握った拳の力を抜いて玄関扉の取っ手に触れた。
「……ふぅ、」