冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
わたしはこれから、皆に神だと謳われるその高貴で気高い見目麗しき今世紀最強の完璧な神様に、会いに行く。
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取っ手を握る手に力が入り、ゆっくりと開いていくその時間は永遠のように長く思えた。
わたしの視界に、夜の空の漆黒が映る。
家の周りに植えてあった木々の葉が風に吹かれて互いを擦り合わせるように揺れ、ザワザワと不気味な音を立てる。
扉が開いていくごとに、わたしの家の目の前の道路に、1台の黒塗りのベンツが停められているのが見えた。
それを見て、緊張感がより一層増す。
そして、扉を完全に開け放った。
その瞬間。
「───七瀬彩夏さん。あなたをお迎えに参りました。さあ、お手を」
わたしの目の前で、飛鳥馬様が左胸に右手を添えて恭しくお辞儀をした。
ああ、このお方はなんてことをするのだ。
庶民でしかないわたしに、どうしてお辞儀をするのだ。わたしの立場を、もっと考慮して行動してほしい。