冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。


当然、そんな生意気なお願いは口に出すことさえ出来ないのだけど。



「……っ、あ、飛鳥馬様。わたし───」

「問題ないよ。君が心配してることは、おれが何とかしてあげるから」

「へっ……!?まだわたし、何も言ってな、」



わたしが何かを言う前に、それを理解したらしい飛鳥馬様が、にっこりと優しく笑った。

思わず、その笑顔から目が離せなくなる。


わたしごときが飛鳥馬様のお顔をジロジロと見つめてはいけないのに、飛鳥馬様のその笑顔には、人を引きつける何か特別なものがある気がした。



「夜の世界に足を踏み入れてはいけない。そう思ってたんでしょ?」



やけに機嫌の良い飛鳥馬様の声が、頭上から注がれる。

一定の音程で発される凪いだ波のように穏やかなその低い声に、思考が停止しそうになる。


何から何まで完璧にできてるの、本当にやめてほしい。

どっちの意味でも、わたしの心臓が持たない。


そして、わたしが考えていたことさえも当てにくる、常人ではないそのお方の手がわたしに近づいてくる。

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