冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
非現実的なこの状況に、わたしの体中が驚いていて、物凄いスピードで血が全身に流れる。
そのせいで、真っ赤に染まってしまったわたしの頬。
「地に足が付かなかったら、夜の街に足を踏み入れたことにはならない。なかなか良い良策でしょ?」
首を傾げ、わたしの目をまっすぐに見つめてくる飛鳥馬様が、僅かに微笑みながらそんなことを言った。
飛鳥馬様にお姫様抱っこをされたことで行き場がなくなっていたわたしの両手は、熱を持った両頬に添えられる。
「ね、七瀬サン。これからおれになんて呼ばれたい?」
こんな状況で、爽やかな笑顔でそんなことを聞かれても、何も答えられないのに。
わたしの困った顔を見るために、飛鳥馬様はわざとそんなことを聞いてくる。
そんなに人が困っているのを見るのは面白いんだろうか。
視線を飛鳥馬様の首元あたりに向けて、なんて返すのが正解なのか切羽詰まっていると、
頭上からクスクスとした笑い声が聞こえた。