惚れた弱み


「…奪ったら?」


その言葉に、菜々は驚いた顔で、博孝を見上げている。


らしくない。そう思われたかもしれない。


でも、もし菜々に彼氏がいたとしたら。


自分なら、奪う覚悟で接している。


現に、今も相良に惹かれている菜々の気持ちを自分に向けようと必死だ。


菜々が振り向いてくれないのであれば、いっそ、自分と同じく「奪い取る」気持ちで、相良を本気で好きでいて欲しかった。
そうでないと、自分のこの努力や思いが報われない。


博孝は、菜々の方へ顔を向けて、言葉を続けた。


「本当に好きなら、奪っていいと思う。俺ならそうするけど。」


「…そんな、奪うなんて。できないです。」


「なんで?」


「なんでって…それは…」


――なんでだよ。なんで奪えないんだよ。相良君の事、本気じゃないのかよ。それならどうして、俺の方を向いてくれないんだよ。俺はこんなにも、橋本ちゃんのことを思っているのに。


答えが出せず、黙っている菜々に、博孝が言った。

< 13 / 60 >

この作品をシェア

pagetop