惚れた弱み


「あ、あのっ!」


菜々が立ち上がってそう言うと、博孝は「ん?」と言って振り返った。


「…ありがとうございます。話聞いてくださって。」


「どういたしまして。」


――橋本ちゃんが困ってたら、いつでも力になりたいと思うのは変わりないからな。…例え、橋本ちゃんの気持ちが、俺に向いてないとしても。


菜々も帰る準備を済ませ、博孝と一緒に駅まで向かった。


「あ、そうそう。見てこれ。」


そう言うと、博孝は手に持っていた袋の中からトロフィーを取り出した。


「インターハイ、優勝しました〜!今日はこれを持って帰るために、学校に来たんだ。」


悔しいが、今の自分に勝ち目がないなんていうのは分かっている。
でもせめて、自分の印象を強くしたい。
努力して、頂点を勝ち取れる男なのだと思って、菜々に見直してもらいたい。


…あわよくば、惚れて欲しい。


「え!?すごい!!おめでとうございます!」


「ありがとう。しかも自己ベスト更新した。」


「すごーい!」


菜々は隣で小さく拍手をしている。


――自分の事みたいに喜んでくれて…。ホントいい子だな。


博孝はつい嬉しくなって、はにかんだ。
自慢するつもりはなかったのだが、でももっと褒めてもらいたい。


そう思い、「ネット記事にも載ったよ。時間あったら見てみてよ、俺の勇姿。」なんて言ってみる。
菜々は「見ます見ます!!すごいなぁ。」と博孝の横でまだ手を叩いている。


ニヤケ顔を隠すために視線を落とし、優勝カップを袋にしまいながら「これで心置きなく受験に専念できるよ」と言った。


「矢嶋先輩は、どこの大学受けるんですか?」


「県内と、県外と、いくつか受けるよ。」


「そう…なんですね。」

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