惚れた弱み
『控えめだなあ。そういうとこ、橋本ちゃんのいいとこだと思うけど、もっとこう、欲を出していいと思うよ?』
『欲…?』
『そ。絶対この人の彼女になりたい!なるんだ!っていう欲。そのくらい思って行動しても、橋本ちゃんならちょうどいいくらいかも。相手も悪くは思わないんじゃないかなー。』
『そ、そうでしょうか…。』
――その「相手」が俺だったらいいのに…。かっこつけて橋本ちゃんの背中を押してるなんて、バカだな俺。
まさに「惚れた弱み」。
応援する気は1ミリもないのに、菜々に良く思ってもらうために「優しい先輩」を演じ続ける。
『そうだよ!じゃないと後悔するかもよ?自分の未来を変えれるのは自分だけなんだからさ。人生一回だけだし、その人と話す機会があるのも、今のうちかもしれない。チャンスは逃さないようにしなくちゃ。』
『チャンス…。』
――俺の人生も一回だけなのに、こんな発言、したまんまでいいのか…?
途端に不安になった。相良と夏休み中に仲を深めて付き合う、なんてことになったら?
――そんなことになれば、絶対に、今日の自分を恨むな。