惚れた弱み
『その人と、夏休みに会う機会はないの?』
『部活の練習もありますし、合宿もあるので、会いますね。』
『合宿か!チャンスだね。』
――合宿とか、絶対に何かあるやつじゃねーかよ!
思わず拳を握って、なんとか自分の気持ちを鎮めようとする。そして、ふと考えた。
――でももし、絶好のチャンスとも言える合宿で、橋本ちゃんが相良君のこと、本気になれなかったとしたら?そしたら俺の逆転もあり得る?
――橋本ちゃんに、しっかり自分と向き合って、気持ちを整理してもらえたとしたら、接点がある俺のことも、男として見てくれるようにもなるかもしれない。それなら、今ここで背中を押す方が、長い目で見れば正解なのかもしれないな…。
『たくさん話してさ、過ごす時間が長くなれば、橋本ちゃんの良さに絶対気づくはずだから、頑張ってみたら?』
――もし橋本ちゃんが頑張っても、橋本ちゃんの良さに気づかないような奴だったら、そんな奴、好きになるな。
そんな腹黒い思いを抱いてしまっている自分に、嫌気が差す。
『…そうですね。がんばってみます。』
そう言って笑った菜々の顔を見たら、自分の腹黒さも忘れて、つい口元が緩んだ。