気弱令息が婚約破棄されていたから結婚してみた。

「配置は村に西に集中されていますが、それでいいんですか?」
「はい。村の西には洞窟のある森があると村人たちに聞きました。森に生息する魔物はボアやベアー、キャタフリー、ブラフラワー、スライムなど一般的なDランクの魔物がほとんど。魔寄せの血臭は比較的高ランクの魔物が呼び寄せられるのです。Dランクの魔物には匂いがきつく、強い魔物が寄ってきやすいので弱い魔物は自衛のために近づかないんです。つまり――」
「盗賊の魔物が西側からくる可能性が高い、ということですね」

 さすがジェラール様!
 理解が早くていらっしゃる!
 そ、それにしても私の推理に答えがわかりました、と嬉しそうにするジェラール様可愛すぎないか?
 癒し。正義。絵画にして部屋に飾るか部屋の壁画にしたい。天井画でも可。
 ああ、手も細くて小さい。
 指細い。すべすべ……すべすべ……!

「フォリシア様」
「大丈夫、犯罪は犯さない。合法だから」
「違います。いえ、それもそうなんですけれど、西側の森から反応がありました」
「もう来たのか……」
「本当に来たんですか!?」

 ルビに声をかけられて、現実に引き戻される。
 別に、私とジェラール様はもう法的にも婚姻関係を認められているのだから合法ではないか。
 なあ、合法だろう? そうだろう!?
 って、思っていたらそうじゃなかったのか。
 ルビの気配感知の魔法に、盗賊どもが引っかかったらしい。
 驚いたジェラール様のやんわりと握られた手、白くて可愛い。
 ……合法なんだし触るのも合法では?
 いや、一応同意は得ておかないとダメか。
 マルセルのドン引きした表情と手鏡を装備してルビを見る限り、ジェラール様の愛らしさで私は理性が飛びそうになっていたのかもしれない。
 っていうか、私のことをそんなによく知らないマルセルにもあんな顔で見られるって、まさか顔に出ていたのか……?
 でも、それならルビに手鏡を突きつけられていたと思うんだが……。

「雑念ヤッバ……」

 ……そうか。
 サタンクラスは雑念や瘴気を目視できるんだった。
 つまりルビと違って、雑念という形でマルセルには丸見えの丸わかりであった、と。
 フッ、なるほどな。

「ルビ、サポートを頼む。自警団兵は私とルビのうち漏らしを足止めしろ! ジェラール様は後方のルビに魔力の供給をお願いします。マルセルは魔物からの瘴気が村に入りそうなら吸収を頼む!」
「はい」
「わ、わかりました!」
「了解です」

 切り替えよう。
 盗賊の走る足音と怒号、魔物の唸り声が近づいてきている。
 マルセルに私がジェラール様に向けて雑念を放っていることをチクられても揺るがない信頼と愛情のために、めっちゃかっこよく魔物と盗賊を討伐する!
 じゃ、なくて!
 考え方を変える。
 ここはジェラール様の守らなければならない領地。領土。
 そこを荒そうというお前らは、ジェラール様を×××しようという不届き者。
 はい、ぶっ倒す!

「わっ!? え……?」

 村まで数十メートルまで迫った三十人ほどの盗賊団。
 馬もなく、魔物に乗って強襲してくる手口は聞いた通り。
 しかしやはりサイクロプスではないな。
 奴らが背に乗る二匹の魔物は、Cランクの魔物、トロールだ。
 二匹とも片目がないので見慣れない平民にはサイクロプスのように思えたのかもしれない。
 片目しかないトロールは双子のトロール。
 魔物は自然発生なので、時折こういうどこかをお互いと分け合った兄弟の魔物が生まれてくる。
 ただそういう魔物は同族に疎まれやすく、この人間たちに幼い頃発見されて飼育されて、上手く道具に育ってしまったのだろう。
 実は国内外にそういう、兄弟魔物の飼育利用の事例は数多い。
 同族に疎まれても、人間だけは穏やかな魔物と共生できるからだ。
 だから、この男たちがもしも、このトロール兄弟を家族のように、力仕事をさせて金を稼ぎ、その報酬として暖かな寝床や食事を提供して持ちつ持たれつのように共生する道を選んでいたならば――私もこんなことをしなくて済んだのだがな。

「なんだ? なんか飛んでくるぞ? なに……?」
「ぐおおおおお!」
「うわ!? どうしたんだこいつ!?」
「え?」

 二匹のトロールの首を落とす。
 魔石の回収は後回し。
 倒れるトロールたちと、その背中に乗っていて急なことでバランスを崩す盗賊たち。

「警告。私の名はマティアス公爵家の騎士フォリシア・マティアス。村への攻撃はマティアス公爵家への攻撃と判断する。盗賊であれば死体の雑念を鑑定され、死後にその罪に相応しい遺体処理罰をなされるだろう。死後の遺体の凌辱を望まないのなら、投降しろ」

 ああ、ジェラール様と同じ苗字を名乗れるなんて幸せ。
 なんて一瞬思ったが、盗賊たちは意外にもトロール兄弟の死に涙を流して怒りを私に向けてきた。
 はあ、そんな顔をして私を逆恨みするくらいなら――死を悼む心があるのなら……。

「最終警告。投降しろ」
「ぶ……ぶっ殺せえええぇ!!」
「投降意思なしと判断。現時点より敵対生物と判断。討伐を開始する」
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