気弱令息が婚約破棄されていたから結婚してみた。

 魔物は自然魔力に、太陽と月の魔力が混じることで発生する……と、言われている。
 人が歩く時の影、月が照らした花の影。
 そういうものから、魔物が生まれるらしい。
 クラス『サタン』――悪しき者。
 彼らはセイントと同じくらいに生まれてきて、魔物が生まれる原因の一つである“穢れ”を生む。
 先程ジェラール様が王都で過ごすと体調を崩す原因である魔力に混じる雑念。
 それよりも強い“悪いもの”が穢れだ。
 これが自然魔力に混じると、強い魔物になる。
 人の体内に入れば病を発症させるが、サタンのクラス適性がある者は穢れに強く、穢れによる病には罹らない。
 国に従事するサタンクラスの者は、悪しき者に突き進んだサタンクラスの者が振り撒いた穢れにより病を発症した者の看病ができる。
 さらに高い適性のサタンクラスの者は病を己の身に吸い取り、セイントの者に自身を浄化させて流行病になる前に沈静化させたりするのだ。
 サタンクラスは“悪しき者”と言われているが、その適性は使いよう。
 元々ナイトやウィザードよりも数が少ないけれど、そうして社会貢献しているから偏見は少ない。
 それにこういうクラス適性があるのは王侯貴族。
 穢れを放つようなサタンにならないように努めるのは、当然だろう。
 まあ、サタンの話は今はどうでもいい。
 要は魔物はそのように生まれて、倒されたら魔石を残す。
 魔物の魔石には“穢れ”が多く、セイントによる浄化が必要不可欠。
 浄化が必要な魔石ばかりでは、平民も使う魔石が圧倒的に不足してしまう。
 魔物の討伐量を思うと、足りなくなるのが怖い気もするけれど。
 ともかくその足りない分を補充するのがウィザード。
 浄化を必要とせず、純度の調節、属性付与まで簡単にできる。

「でも、それは、その……魔石はウィザードにしか作れないのでは?」

 不安気に見上げてくるジェラール様が可愛すぎて思わず鼻を押さえる。
 鼻血はギリギリ出ていないと思う。
 いや、まずここでは出すな。
 鼻血は家に帰ってからだ。
 鼻の血管を強化しろ。
 イケる。
 私にならできる。
 やれ、私。

「失礼いたします」

 と、私の後ろに控えていたルビが手を挙げる。
 テーブルに近づき、一枚の紙を取り出した。
 楕円形の魔法陣が描かれている空の上に手をかざすと、ルビの中の魔力が空気を纏いながら赤いシザースカット型の魔石が生まれた。

「――ウィザード……」
「はい。わたくしのクラスは『ウィザード』です。ウィザードの作った魔法陣があれば、魔力を込めれば魔石を作ることは可能です。魔法陣を作り出すのがウィザードクラスの“特性”ですから」
「そ、そうなのですか?」
「はい。どうぞお試しください」

 そう言ってルビは魔法陣の描かれた紙をジェラール様に差し出す。
 ジェラール様とそのご両親の顔は期待と不安と戸惑い。
 けれど、一番大きいのは期待、だろう。
 恐る恐る私とルビを伺うように見るジェラール様が超絶可愛いんだが、小動物味がありすぎて今すぐにでも抱きしめて頬擦りしてチュッチュってほっぺにチューしまくって、吸いたい。
 唸れ、私の身体強化魔法。
 顔面を凍らせろ。
 悟られるな。
 ルビが私に手鏡をチラ見せしているぞ。
 ここでオークの顔になるわけにはいかないだろう。
 あれは自分でもちょっとトラウマだ。

「では、あ、あの……お借りします」

 ジェラール様が可愛らしい声で、おどおどしながら魔法陣に手をかざす。
 はぅっ……爪がピンク色で可愛い……!
 この人どこをとっても可愛いな!

「っ!」

 その可愛らしい指先から、白い魔力が溢れ出す。
 魔法陣の形の通り――シザースカットの透明な魔石ができあがった。
 す、素晴らしい!

「無属性魔石ですね」
「無属性……」
「大変よろしいかと思います。無属性の魔石はあとからウィザードクラスの者が属性付与すればよいので、このままでも十分専門店へ卸すことができます。卸先などは、伝手を探す必要があるかと思いますが……体調は大丈夫ですか?」
「は、はい。思ったよりも魔力を使うのですね……?」

 そう言って、ジェラール様は自分で作った魔石を眺める。
 ウィザードであれば製造と同時に属性付与ができるが、ジェラール様は魔石は作れても属性付与まではできない。
 しかし、ジェラール様の作った魔石は心なしか、ルビが作ったものよりも大きいような?
 それに関してはルビも思ったらしく「ジェラール様がかなり魔力を込めて作ったので」と語る。

「魔石作りは製造者が魔石の魔力濃度と大きさを調整できるのですが、ジェラール様はやはり魔力がかなり多いのだと思います。わたくしが作ったものよりも、かなり魔力濃度の濃い大きな魔石ができました。魔石製造には規定もありますので、販売するのであればそういったことも覚えていけばいいかと思います。せっかく製造されるのですし」
「待て、ルビ。ジェラール様は魔石作りをやるとは言っておられないぞ」
「そうでございました。差し出がましいことをいたしまして、申し訳ございません」
「いえ! いえ、そんな!」

 勝手に話を進めてしまったことを頭を下げて謝ると、ジェラール様は首を振る。
 ジェラール様のご両親も顔を見合わせて「よいことを教えていただきました」と頷かれた。

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