肉を斬らせて骨を断つ
お母さん。
は、と息を呑む。
窓に貼り付き、その顔を覗こうと身体を捻る。
「どうした?」
人混みに紛れ、その人はもう見えなくなった。純玲の声に、小さく首を振る。
「戻ろうか」
「ううん、いい」
「誰か居たのか?」
「……お母さんが、見えた気がするんだけど。こんなとこに居るわけないし」
傷口が痛い。お腹を押さえると、純玲が車を路肩に停める。
「今なら戻れる」
今なら。
あたしはあの部屋の扉から出て行く母親の姿を思い出す。
こちらを振り向くこともなく。
「いい。帰ろ」
再度首を振った。