肉を斬らせて骨を断つ

あたしはもう、あの部屋には戻らない。

「わかった」

車が発進する。

「傷が治ったら、花火を見に行こう」
「もう夏終わるでしょ」
「来年でも良い」
「来年まであたしが大学通えてるかな」
「通って無くても、一緒にいよう」

純玲の言葉に返事が出来なかった。

「冴」
「……うん」
「ティッシュ……あ、これ」

赤信号で止まり、純玲がこちらにそれを差し出す。

白いハンカチが眩しい。

べしょべしょと泣くあたしは、それを目元へ押し当てた。

「大丈夫だ」

純玲の声に頷く。

「たくさん泣いて良い」

< 77 / 82 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop