嫌われ令嬢が冷酷公爵に嫁ぐ話~幸せになるおまじない~
 街は繁盛していた。
 色とりどりの屋根を持つ建物が並び、往来は人で溢れかえっている。
 マイアはその様子を馬車の車窓から眺めていた。

(すごい……こんな景色見たことないわ)

 妹のコルディアはしきりに街へ出かけていた。
 彼女もこんな景色を毎日のように見ていたのだろうか。

 これから向かう先は、繁華街のさらに奥にある貴族街。
 そこでドレスを買うとセーレが言っていた。

 貴族街に入ると、喧騒は消えた。
 代わりに訪れたのは、静謐な秩序。
 家紋を持つ馬車ばかりが往来を行き交い、上等な服を着た人ばかりが歩いていた。

「到着です。参りましょう、マイア様」

 ショーケースにドレスが飾ってある店の前に馬車が止まる。
 セーレは躊躇わずに店の扉へ向かって行くが、マイアは足踏みしていた。

「え、ええ……行くわ。いま行くわ」

 深呼吸して、マイアは店の扉をくぐる。
 入った瞬間、煌びやかなドレスの群れが視界に飛び込んだ。

 コルディアが普段着ていたような、大きくスリットの入ったドレスは似合わないだろう。マイアが着るとしたら……落ち着いた雰囲気のあるドレスがいい。
 あんまり目立たないやつを探す。
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