嫌われ令嬢が冷酷公爵に嫁ぐ話~幸せになるおまじない~
 ジョシュアはしばし悩んだ。
 この質問をマイアにぶつけていいものか。
 だが、腹を割って話さねばならないこともある。

「ときにマイア嬢。
 君はなぜ……悪い噂を流されていた?」
「そ、それは……」

 言いづらそうに口ごもるマイア。
 彼女の様子を見て、やはりかとジョシュアはため息をついた。
 よほど言いたくない理由でなければ、こんな反応はしないだろう。

「すまない。意地の悪い質問をしたな。
 ……実はな、君の実家であるハベリア家に密偵を出していたんだ」
「え……」

 つまり、マイアがどのような待遇を受けていたのかも知られていたのだろうか。
 実家の地獄のような経験を思い出し、マイアは動悸が高まった。あの日々にはもう……戻りたくない。

「君への扱いは、伯爵令嬢に対するそれではなかったな。義母や妹によるいじめ、使用人からの暴力……すべて明らかになった。
 ……辛かっただろう」
「ジョシュア様、私は……」

 これでは支度金目当てにマイアが嫁いだことがバレてしまう。
 マイアにはそれが何よりも恐ろしかった。

「支度金をハベリア家には送らん。
 そしてマイア嬢……いや、マイア」

 温かい抱擁がマイアを包む。
 ふわりといい匂いが漂い、直接ジョシュアの温度を感じた。

 この感覚は知らない。
 今までにマイアは味わったことがない。
 動悸が少しずつ小さくなっていく。

「俺の妻は、俺が守る。もう二度と君をあの家には返さない。今日からここが君の実家だ」
「ジョシュア、様……私……」

 ずっと辛かった。
 元気なふりをしていただけで、本当は苦しかった。

 ジョシュアは本当の居場所をマイアにくれたのだ。
 もう苦しまなくていいと言ってくれた。

 ジョシュアの腕の中で、マイアは涙をこぼした。
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