嫌われ令嬢が冷酷公爵に嫁ぐ話~幸せになるおまじない~
 ジョシュアはやさしくマイアの背を押す。

「今度の夜会にマイアを連れて行きたい。一応、主催者の君にも事前に紹介しておこうと思ってな」
「へえ、いいんじゃないか? これで君に言い寄る女性も減るだろうさ。
 しかし……ハベリア家の姉か。妹のコルディアさんの顔はよく見るが、マイアさんは見たことなかったな。噂じゃかなりの悪女で、見苦しいとか言われてたけど……」
「──ジャック。俺の前で妻への暴言は許さんぞ。
 あくまで妹を立てるために流された、くだらん噂だ」

 ジョシュアが怒気を発し、ジャックは口をつぐむ。

「いや失敬。デリカシーがなかったね、すまない。となると、ジョシュアと似た感じで……あえて悪い噂を流していた。いや、流されていたのか。あのコルディアとかいう令嬢、やけにマナーが悪いと思ったら……そういうことか」

 どうやらジャックにも思うところがあるようだ。
 妹のコルディアはよく夜会に参加しており、ジャックが見かける機会も多い。男を露骨に誘うような真似をしたり、マナーのない行いで噂されたり……目に余る行為が多かったのだ。

 そんなコルディアをマシに見せるため、マイアは利用されていたのだろう。
 ジョシュアはマイアの本質を見抜き、厚く信頼しているようだ。ならば親友であるジャックも疑う余地はない。

 そう考えたところで、二階からもう一人降りてきた。
 紫紺の髪と瞳を持つ美しい女性だ。

「マイアさん。私の婚約者のエイミーだ」
「ごきげんよう。あなたがジョシュア様の婚約者ですのね。ジョシュア様がお選びになっただけあって、とても美しい」

 エイミーは優雅に一礼した。
 言葉では言い表せない気品が漂っている。
 マイアも礼をして名乗り返した。

「エイミー、マイアさんも今度の夜会に出るらしい。よかったら貴族の勢力とか、振る舞い方とか、世間話とか。いろいろ教えてあげてほしい。私はジョシュアと話したいことがあるからさ」
「わかりましたわ。さ、マイアさん。こちらへどうぞ」
「は、はい!」

 エイミーに誘われるがまま、マイアは二階に上がっていく。階下では愉快そうなジャックの声が響いていた。
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