嫌われ令嬢が冷酷公爵に嫁ぐ話~幸せになるおまじない~
 一階に戻ると、ジョシュアとジャックは真剣な面持ちで何か話し込んでいた。
 しかし、マイアとエイミーの姿を見ると口を閉ざす。

「お、エイミーにマイアさん! お話は充分できたかな?」
「ええ、おかげさまで。マイアさん、お話ししていてとても楽しい方ですのよ」

 エイミーの賞賛を聞いて、ジョシュアは「そうだろう」とでも言いたげな様子で頷いている。

「ジョシュアときたらさ、こんな茶会でも政務の話ばっかりだ。ま、いつものことだけど」
「仕方ないだろう。二人でなければ話し合えないこともある。今は忙しい時期なんだ。それに世間話もできただろう」

 マイアはそういう真面目なところも含めて、ジョシュアの魅力だと思っている。彼を堅物などと揶揄する人は、彼の苦労を知らないのだ。

 ジョシュアは立ち上がって服の裾を直す。

「さて、そろそろ失礼しようか。マイアもエイミー嬢から、ためになる話を聞けただろう」
「はい、とっても楽しかったです!」

 今回、エイミーから聞いた情報や作法が役に立つといいのだが。
 二人が去ろうとすると、ジャックも立ち上がった。

「せっかくだし屋敷の外まで見送るよ」
「いや……ジャック、君は仮にも王族だ。無闇に屋敷から出ようとするのはやめた方が」
「あー出た出た、ジョシュアの度が過ぎる忠告! 大丈夫だって。ほら行くぞ」

 ジャックに強引に腕を引っ張られ、ジョシュアは出口に向かっていく。ジョシュアは「俺は本気で君を心配しているんだが……」とでも言いたげに眉をひそめていた。

「ジャック殿下、お元気な方ですね」
「元気じゃなくてうるさいのよ。昔からずっと変わらないわ」

 マイアとエイミーは二人を微笑ましく見守っていた。
 王族ながら、ジャックの性格には惹かれる溌剌さがある。あれがカリスマというやつだろうか。

 もちろんジョシュアにだって別系統のカリスマが溢れている。あの二人のように、マイアもエイミーと仲良くなれたらと思う。
< 52 / 87 >

この作品をシェア

pagetop