嫌われ令嬢が冷酷公爵に嫁ぐ話~幸せになるおまじない~
「それでは、ごきげんよう。また夜会で会いましょうね、マイアさん」
「はい! エイミー様もお元気で!」

 ぺこりと礼をして、マイアは屋敷の外に出る。
 少し前にいるジョシュアとジャックのもとへ歩き出した瞬間。

 ひとつの影が飛び出した。
 同時に視界の先でジョシュアが動く。

「……え」

 一人の男が、ジャックにナイフを振りかざしていた。
 ナイフはジャックの腕を掠める。
 瞬間的にジョシュアがジャックを引き戻し、致命傷を避けたのだ。

 襲いかかってきた男はジョシュアが前に立ち塞がったのを見て、慌てて走り去っていく。

「ジャック!!」

 エイミーが慌ててうずくまるジャックに駆け寄る。マイアは何が起こっているのかわからず、ひたすら立ち尽くしていた。

「ジャック殿下……!」

 一拍遅れて、マイアも走り出す。
 ジャックはそれなりに深い傷を負ったようで、血を流しながら歯を食いしばっていた。

「いてて……いや、びっくりしたよ。ジョシュアがいなかったら死んでたかも」
「だから言っただろう! 王族が護衛もつけずに外に出るんじゃないと!」

 ジョシュアは怒りを露わにしながら自分の服を破る。それから破った布地を強引にジャックの腕に巻き付けた。

「あはは……今回ばかりは反論できないな。私が迂闊だったよ。しかし、この腕じゃ夜会で踊ることもできないか」

 襲撃者、暗殺者なんてものはマイアの辞書にはなかった。伯爵令嬢ごときが、そこまで命を狙われることはあまりない。
 しかし、王族や公爵となれば別なのだろう。

「ジャックさん……腕を出してください」
「ん、どうしたマイアさん? 私なら無事だよ。ジョシュアのおかげでね」

 そうは言ってるものの、失血や傷口からの病気などの不安もある。
 マイアは「おまじない」を使って傷を治すつもりだ。
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