嫌われ令嬢が冷酷公爵に嫁ぐ話~幸せになるおまじない~
 ジョシュアやアランからは、おまじないを人前で使わないようにと言われている。しかし、今ばかりは心配すぎて従っていられなかったのだ。
 ジョシュアもマイアの行動に気づいていたが、止めはしなかった。

「いたいのいたいの、とんでけー……!」

 マイアがおまじないを唱えると、ジャックの傷口がみるみるうちに塞がっていく。
 急速に引いていく痛みに、ジャックは目を見開いた。後ろで見ていたエイミーも同様だ。

「マイアさん、これは……なんだ!?」
「マイア……いや、今回ばかりは仕方ないな。俺もジャックが心配で仕方なかった。感謝しよう」
「いえ、ジョシュア様。約束を破ってしまい申し訳ありません」

 ジャックは布をどかし、自分の傷口をまじまじと見つめる。肌はきめ細やかに、美しい白色に戻っていた。
 ジョシュアは三人を敷地内に入れて説明する。

「マイアには「おまじない」と言われる、治癒の能力がある。争いの種になるだろうと思い、他人の前では使わないように言っていたんだ。
 君たちも内密にしておいてくれ」
「へえ……さすがジョシュアの婚約者! やっぱり特別なんだな!」
「ねえ、ジャック……あなたはさっきまで命を狙われていたのよ? もう少し危機感を持ったら?」

 命を狙われても、マイアの能力を知っても、ジャックはやはり変わらなかった。
 ジョシュアとエイミーは呆れている。

「とにかく、このことは黙っておくよ。マイアさん、ありがとう! 君のおかげで夜会でダンスも踊れそうだ!」
「はい、ジャック殿下が無事でよかったです!」

 困っている人がいたら、思わず助けてしまう。
 そんなマイアを見て、ジョシュアは微笑んだ。
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