嫌われ令嬢が冷酷公爵に嫁ぐ話~幸せになるおまじない~
「お初にお目にかかります、ジョシュア公爵閣下!
 わたくし、商人のデナリス・マードックと申します。以後お見知りおきを!」

 デナリスは中年の小太りの男だった。
 愛想よく見える笑顔を貼り付け、うやうやしくジョシュアに礼をする。

「座れ」
「はっ、失礼いたします」

 背後にはアランが控えている。
 アランは主人が外向けの態度であることに気がついていた。

 噂通り、他人に容赦なく冷徹な性格をした……よそ行きの姿だ。
 ジョシュアはぴしゃりと問う。

「何用だ」
「はい。今回は新たな交易ルートを紹介させていただこうかと」
「ほう……」

 そうきたか、とジョシュアは内心で思う。
 本題は支度金の催促なのだろうが、建前として交易ルートの紹介をしようという魂胆だ。何百人もの商人を相手にしてきたジョシュアからすれば、デナリスの思惑は透けて見えた。

「話を聞こう。ただし、我が領地を利用しようとすれば……わかっているな?」
「り、利用しようなどと恐れ多いです! 公爵様の利益になるお話ですとも!」

 最初に圧をかけておくことにより、デナリスの行動を制限する。
 ジョシュアの覇気にあてられたデナリス。
 彼は恐る恐る商談を進め始めた。
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