嫌われ令嬢が冷酷公爵に嫁ぐ話~幸せになるおまじない~
 商談はひと区切りついた。
 悪くない話だ。

 商談でまともな利益をジョシュアに提示することにより、本命の支度金の提案を通すつもりだろう。

「……いかがですかな?」
「悪くないな。検討しておこう。他の交易ルートとの兼ね合いもあるので、即答はしかねるが……優先度は高い」
「おお、さすが閣下! お目が高い!」

 デナリスは媚びるように手を揉む。
 そして、さりげなく話題をジョシュアの婚約に近づけた。

「そういえば、ハベリア家から閣下の奥様が決まったとお聞きしました。聞けば伯爵令嬢のマイア様だとか」
「そうだ。耳が早いな」
「どうです、マイア様は?」

 ジョシュアは考え込む。
 ここは本音を話してもいいが。

 デナリスの反応を見るために、あえて嘘を吐いてみる。

「ダメだな、あの令嬢は。どんくさい、田舎くさい、マナーがなっていない、無礼。欠点を上げればキリがない。もっとも、仕事の邪魔をされないための契約結婚だ。別に構わないが」

 後ろで話を聞いていたアランは吹き出しそうになった。
 おそらくジョシュアが言っていることはすべて本心と真逆だ。

 しかし、デナリスの反応は嬉しそうなものだった。

「はっはっ! そうでしょうとも! あの令嬢様は、向こうでも評判が悪くて仕方ありませんでした。妹のコルディア様と比べて、なんと情けないことかと……ご両親も嘆いていらっしゃいました。
 そんな娘を引き取ってくださった閣下には、ハベリア伯爵も頭が上がらないでしょうねえ」

 そう言われても、まったくジョシュアはマイアを迷惑だと感じていない。
 むしろ絶対に返してやるものかと思っているのだ。

「わたくしはハベリア領とも商談を結んでいるのですが。なかなか財政が逼迫しているとも聞きましたな」
「そういえば、支度金を送っていなかったな」
「……! それはいけません! 公爵家の沽券に関わりますよ」

 いち伯爵に送金しなかったところで、理由を説明すれば公爵家の格は落ちない。どうやらデナリスは公爵という位の規模を見誤っているらしい。
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