後宮毒見師伝~正妃はお断りします~
入学免除
「ここは……」
毎日の掃除は後宮内なので、初めて来る場所だ。立ち入り禁止の区域は聞かされていないので、ここも特に問題無いだろう。
「誰かいればいいんだけど」
そして、是非とも帰り道を教えてもらいたい。出来れば近くまで案内してほしい。切実な願いとともに足を踏み入れる。
「そこの宮女、ここは管轄外ですので、掃除は結構……夏晴亮?」
「馬宰相!」
見知った顔に出会うことが出来、夏晴亮が眉を下げる。これで部屋に戻ることが出来る。それとは反対に、宰相は珍しく真顔を崩し、眉を上げて驚いていた。
「貴方が何故ここに」
もしかして、知らなかっただけで宮女が入ってはいけなかったのかもしれない。夏晴亮が脊髄反射で腰を九十度に折る。
「申し訳ありません。お恥ずかしながら迷子になってしまい、途中で見つけた犬の後を追っていたらこちらに辿り着きまして」
「この犬の?」
「はい」
「そうですか」
馬牙風が犬に手招きすると、大人しく彼の元へ歩いておすわりをした。実に教育されている賢い犬だ。
「犬の名前を聞いてもよいですか?」
「雨です」
「雨ですか」
雨の日にでも生まれたのか、珍しい名前だと思った。宰相が右手を挙げる。
「後宮の入り口はあちらを真っすぐ行ったところです。ついでに、私も行きましょう」
「有難う御座います」
宰相の後ろをついていく。今は雨もいないため、少し気まずい。何か会話をした方がいいのかと思っても、彼と共通の話題が見つからず、結局夏晴亮の部屋まで無言で帰ることとなった。
「亮亮。遅かったじゃな……なんか横に変な影が付いているわよ。近くにいたら貴方まで暗くなっちゃう」
「ただいま戻りました。馬宰相がここまで送ってくださったんです」
「そうなの。私の可愛い後輩を送ってくださり恐縮です。それではお元気でさよなら」
棒読みで読み上げた馬星星が部屋の扉を閉めようとしたら、馬宰相に足で止められた。
「まだ何か用事でも?」
「そうですね。夏晴亮に少々業務連絡を」
「私に? なんでしょう」
馬星星の後ろにいた夏晴亮がひょこりと顔を出す。
「ええ、学び舎の件ですが、貴方は入学試験を受けないことになりました」
「え、入学試験無しですか!?」
「はい。先ほど、急遽」
「じゃあ、入れないということですね」
夏晴亮は落ち込んだ。試験に落ちたならまだしも、受けることすら許されないなんて。馬宰相が夏晴亮の前で手を振って否定した。
「入れないというか、入らなくていいということです」
馬宰相の一言に夏晴亮が顔を上げる。
「どういうことですか?」
「貴方は技術面ですでに卒業生と同程度なので、入る必要は無いということです。座学の面では素人なので学ばなければなりませんが、それは実践で都度私がお教えします」
夏晴亮が瞳をぱちぱちさせる。まさかの大逆転だ。横で聞いていた馬星星が手を叩いて喜んだ。
「すごい、亮亮! 天才かしら!」
「あ、有難う御座います」
馬星星にぎゅうぎゅうに抱きしめられながら礼を言う。何がどうなって技術を認められたのか分からないが、この身が役に立つというのなら有難い話だ。
毎日の掃除は後宮内なので、初めて来る場所だ。立ち入り禁止の区域は聞かされていないので、ここも特に問題無いだろう。
「誰かいればいいんだけど」
そして、是非とも帰り道を教えてもらいたい。出来れば近くまで案内してほしい。切実な願いとともに足を踏み入れる。
「そこの宮女、ここは管轄外ですので、掃除は結構……夏晴亮?」
「馬宰相!」
見知った顔に出会うことが出来、夏晴亮が眉を下げる。これで部屋に戻ることが出来る。それとは反対に、宰相は珍しく真顔を崩し、眉を上げて驚いていた。
「貴方が何故ここに」
もしかして、知らなかっただけで宮女が入ってはいけなかったのかもしれない。夏晴亮が脊髄反射で腰を九十度に折る。
「申し訳ありません。お恥ずかしながら迷子になってしまい、途中で見つけた犬の後を追っていたらこちらに辿り着きまして」
「この犬の?」
「はい」
「そうですか」
馬牙風が犬に手招きすると、大人しく彼の元へ歩いておすわりをした。実に教育されている賢い犬だ。
「犬の名前を聞いてもよいですか?」
「雨です」
「雨ですか」
雨の日にでも生まれたのか、珍しい名前だと思った。宰相が右手を挙げる。
「後宮の入り口はあちらを真っすぐ行ったところです。ついでに、私も行きましょう」
「有難う御座います」
宰相の後ろをついていく。今は雨もいないため、少し気まずい。何か会話をした方がいいのかと思っても、彼と共通の話題が見つからず、結局夏晴亮の部屋まで無言で帰ることとなった。
「亮亮。遅かったじゃな……なんか横に変な影が付いているわよ。近くにいたら貴方まで暗くなっちゃう」
「ただいま戻りました。馬宰相がここまで送ってくださったんです」
「そうなの。私の可愛い後輩を送ってくださり恐縮です。それではお元気でさよなら」
棒読みで読み上げた馬星星が部屋の扉を閉めようとしたら、馬宰相に足で止められた。
「まだ何か用事でも?」
「そうですね。夏晴亮に少々業務連絡を」
「私に? なんでしょう」
馬星星の後ろにいた夏晴亮がひょこりと顔を出す。
「ええ、学び舎の件ですが、貴方は入学試験を受けないことになりました」
「え、入学試験無しですか!?」
「はい。先ほど、急遽」
「じゃあ、入れないということですね」
夏晴亮は落ち込んだ。試験に落ちたならまだしも、受けることすら許されないなんて。馬宰相が夏晴亮の前で手を振って否定した。
「入れないというか、入らなくていいということです」
馬宰相の一言に夏晴亮が顔を上げる。
「どういうことですか?」
「貴方は技術面ですでに卒業生と同程度なので、入る必要は無いということです。座学の面では素人なので学ばなければなりませんが、それは実践で都度私がお教えします」
夏晴亮が瞳をぱちぱちさせる。まさかの大逆転だ。横で聞いていた馬星星が手を叩いて喜んだ。
「すごい、亮亮! 天才かしら!」
「あ、有難う御座います」
馬星星にぎゅうぎゅうに抱きしめられながら礼を言う。何がどうなって技術を認められたのか分からないが、この身が役に立つというのなら有難い話だ。