後宮毒見師伝~正妃はお断りします~

共同生活

 花を飾り部屋の片づけをしていたら、控え目に扉を叩かれた。馬星星(マァ・シンシン)だったら自分の鍵で開けるので客人だろう。誰かが来る予定はなかったので、首を傾げながらも訪問者に声をかける。

「どなたですか」
馬牙風(マァ・ヤーフォン)です」
「今開けます」

 先ほど別れたばかりなのに、急ぎの用事だろうか。鍵を開けると、そこには馬牙風とともに(ユー)がいた。

「あらッ」

 まさか雨がいるとは思わなかった。夏晴亮(シァ・チンリァン)が雨と視線を合わせ、頭を優しく撫でる。馬牙風は珍しいものを見るように頷いた。

「やはり、貴方に相当懐いているみたいです」
「そうですか? 大人しいわんちゃんだからでは?」
「いえ、雨はかなり気性が荒く、精霊として使役しようとしても誰も扱うことが出来ず、今日のように勝手に逃げ出してしまうのです」

 撫でられて甘えた声を出している雨を見遣る。全然そんな風には見えない。別の犬のことを言っているのではないかとさえ思う。

「どうぞ、中へ」
「失礼します」

 雨は一般人には視えないと言うが、万が一ということもある。騒がれると大変なので、夏晴亮が部屋の中へ一人と一匹を招き入れた。

「先ほどは第一皇子がいらっしゃったので、改めて参りました」
「何かご用事ですか? 私に出来ることであればなんなりとおっしゃってください」
「それは助かります。実は、この雨の世話をお願いしたいのです」
阿雨(アーユー)(雨ちゃん)の?」

 今日初めて出会ったばかりだが、とても可愛らしく賢そうな犬だ。世話をするなら是非したい。しかし、精霊の類を飼ったことがなく、どうやって世話をしたらいいのか分からない。

「ご心配なく。餌は主人の霊力を吸うことで完了しますので、特別な何かをする必要はありません。下の世話もありません。寝る時も勝手に寝ます。ただ傍にいて、仲良くしてくれさえいれば、段々成長していきます」
「それなら。でも、私に霊力があるのかどうか分かりません」
「それが視えている時点で十分あります。吸うと言ってもごく微量なので、気にすることはありません」
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