後宮毒見師伝~正妃はお断りします~
頑張る雨
「そうだ。阿雨、第二皇子の後を追ってみてくれる? あんまり遠くなるようだったら、途中で戻ってきていいから」
『わおん!』
せっかく誰にも視えない相方がいるのだから、その有利を役立てない手はない。雨もやる気を出して、しっぽを振りながら第二皇子の後を追った。その様子に安心して掃除をするが、やはりはじめての任務をしている雨のことが気になる。
「大丈夫かな」
掃除をしながら、少しずつ雨がいるであろう方へ近づいてみる。しかし、途中で他の宮女と鉢合わせした。ここからは彼女が掃除しているのなら、夏晴亮は諦めるしかない。
「お疲れ様」
「お疲れ様です」
お互い挨拶を交わして別れる。どうしよう。雨はどこまで行ったのか。第二皇子の部屋は見つけたか。侵入して無茶はしていないだろうか。考え始めると、どんどん不安になってきた。
『くぅん』
「阿雨!」
そわそわ待っていたら、雨が戻ってきた。よかった、無事だ。ほっとしたのもつかの間、雨の様子がおかしい。俯いて、悲し気な声を出している。
「具合が悪いの?」
『くぅん』
夏晴亮では雨の言葉が分からない。病気であったら大変だ。掃除を終わらせた夏晴亮は馬宰相の元へ急いだ。
「馬宰相。宜しいですか」
部屋の扉を叩くと、すぐに彼が現れた。
「どうしました」
「あの、阿雨と調査を行っていたのですが、阿雨が途中から元気が無くなってしまって」
「そうですか。診てみましょう」
馬宰相が雨を触るが、特に傷は見当たらなかった。精霊は風邪を引かない。となると、原因が他にあることになる。
「術者から攻撃を受けなければ、傷も出来ません。具合が悪い様子は無いですね」
「そうなのですか。阿雨、どこも痛くない?」
『くぅん』
「ふむ。精神的に何かあったか、見たかかもしれません」
夏晴亮が雨を見遣る。自分が指示したから雨に負担をかけてしまった。雨に謝ると、雨がふるふると首を振った。
「貴方が原因ではないそうですよ」
「それなら、何故」
すると、雨が後ろを向き、扉に向かって頭を付けた。一度離れて、また扉に頭を付ける。
「扉? 扉が原因ってこと?」
「夏晴亮、雨にはどう指示しましたか?」
馬宰相に尋ねられ、その時のことを思い返す。
「たしか、第二皇子とすれ違ったので、後を追うようにと。遠くなるなら戻ってきてと言いました。それ以外は指示していません」
「なるほど……もしかしたら、第二皇子の部屋に入ろうとして扉が開けられず、侵入に失敗したと落ち込んでいるのかもしれませんね」
その推測に夏晴亮が驚いた。
「阿雨は扉をすり抜けることは出来ないのですか? 人とはぶつからずすり抜けていたので、てっきり他のものもそうかと思っていました」
『わおん!』
せっかく誰にも視えない相方がいるのだから、その有利を役立てない手はない。雨もやる気を出して、しっぽを振りながら第二皇子の後を追った。その様子に安心して掃除をするが、やはりはじめての任務をしている雨のことが気になる。
「大丈夫かな」
掃除をしながら、少しずつ雨がいるであろう方へ近づいてみる。しかし、途中で他の宮女と鉢合わせした。ここからは彼女が掃除しているのなら、夏晴亮は諦めるしかない。
「お疲れ様」
「お疲れ様です」
お互い挨拶を交わして別れる。どうしよう。雨はどこまで行ったのか。第二皇子の部屋は見つけたか。侵入して無茶はしていないだろうか。考え始めると、どんどん不安になってきた。
『くぅん』
「阿雨!」
そわそわ待っていたら、雨が戻ってきた。よかった、無事だ。ほっとしたのもつかの間、雨の様子がおかしい。俯いて、悲し気な声を出している。
「具合が悪いの?」
『くぅん』
夏晴亮では雨の言葉が分からない。病気であったら大変だ。掃除を終わらせた夏晴亮は馬宰相の元へ急いだ。
「馬宰相。宜しいですか」
部屋の扉を叩くと、すぐに彼が現れた。
「どうしました」
「あの、阿雨と調査を行っていたのですが、阿雨が途中から元気が無くなってしまって」
「そうですか。診てみましょう」
馬宰相が雨を触るが、特に傷は見当たらなかった。精霊は風邪を引かない。となると、原因が他にあることになる。
「術者から攻撃を受けなければ、傷も出来ません。具合が悪い様子は無いですね」
「そうなのですか。阿雨、どこも痛くない?」
『くぅん』
「ふむ。精神的に何かあったか、見たかかもしれません」
夏晴亮が雨を見遣る。自分が指示したから雨に負担をかけてしまった。雨に謝ると、雨がふるふると首を振った。
「貴方が原因ではないそうですよ」
「それなら、何故」
すると、雨が後ろを向き、扉に向かって頭を付けた。一度離れて、また扉に頭を付ける。
「扉? 扉が原因ってこと?」
「夏晴亮、雨にはどう指示しましたか?」
馬宰相に尋ねられ、その時のことを思い返す。
「たしか、第二皇子とすれ違ったので、後を追うようにと。遠くなるなら戻ってきてと言いました。それ以外は指示していません」
「なるほど……もしかしたら、第二皇子の部屋に入ろうとして扉が開けられず、侵入に失敗したと落ち込んでいるのかもしれませんね」
その推測に夏晴亮が驚いた。
「阿雨は扉をすり抜けることは出来ないのですか? 人とはぶつからずすり抜けていたので、てっきり他のものもそうかと思っていました」