後宮毒見師伝~正妃はお断りします~
上司想いの罪人
一歩前に出た任明願が術師に止められる。任明願は言った。
「子風様は決して関係ありません。私の独断でやったことです。彼は何も知らない」
「では何故このようなことを?」
聞いているこちらの胃に穴が開きそうだ。夏晴亮が硬い表情で行く末を見守る。
「それは……貴方の具合が悪くなれば、子風様の評価も少しは上がるのではないかと考えたからです」
──ん?
評価とは? 毒事件にしてはなんだか目標が低い気がする。夏晴亮が首を傾げる横で、任深持が納得したように頷いた。
「やはりな。そんなところだろうと思った」
「毒といっても、お腹を下したり体調を崩す程度ですからね。これが大量だったらまた違いますが」
「えっ」
驚いているのは夏晴亮だけだった。周りを見渡しても、彼女以外は呆れ顔ばかりで。
「死なない毒だったのですか?」
「ああ。だから犯人がはっきりするまでじっくり待つことにした。こちらには毒見師もいて安全だからな」
「そうなのですか」
よかった。宮廷内に任深持を殺そうとする者はいなかったのだ。しかし、中途半端な毒をもって自身を危険な位置に落とすとは、上司に花を持たせたいにしては待っている結果が重すぎる。任明願が肩を落とした。
「第二皇子は不器用で、何をしても貴方より目立たない。次期皇帝にもなれない。誰からも期待されていないのです。だから、貴方の評価が下がれば」
「子風の評価が上がるとでも? とんだ茶番だ」
「そんな……そんなことは、分かっています」
任明願は頭が悪いわけではない。第一皇子を陥れたところで、第二皇子の実力が上がるわけがないことくらい、傍にいる自分がよく理解している。それでもなお凶行に走る程追い詰められていたということか。
「お前が第二皇子の力を信じなくてどうする。すべきだったのは、毒を盛ることではなく、どうしたら子風が成長出来るか一緒になって考えて行動することだったな」
「はい。申し訳ありませんでした……」
彼の心情を考えると、どうにもすっきりしない幕引きとなった。
「あの、任先輩はどうなるのですか?」
いくら死なないといっても毒は毒。彼の行為は罰せられるべきだ。第二皇子を想ってしでかした過ちのために、彼は第二皇子から離れなければならないだろう。
「お前は重罪を犯した。よって、宮廷追放とする」
「……はい」
俯いた任明願に夏晴亮は何も言えない。励ましの言葉を投げつけても、ただの気休めにしかならないのだ。
「第二皇子のことを、どうぞ宜しくお願い致します」
最後まで自分のことではなく上司のことばかりだ。夏晴亮は心が痛くなった。
「子風様は決して関係ありません。私の独断でやったことです。彼は何も知らない」
「では何故このようなことを?」
聞いているこちらの胃に穴が開きそうだ。夏晴亮が硬い表情で行く末を見守る。
「それは……貴方の具合が悪くなれば、子風様の評価も少しは上がるのではないかと考えたからです」
──ん?
評価とは? 毒事件にしてはなんだか目標が低い気がする。夏晴亮が首を傾げる横で、任深持が納得したように頷いた。
「やはりな。そんなところだろうと思った」
「毒といっても、お腹を下したり体調を崩す程度ですからね。これが大量だったらまた違いますが」
「えっ」
驚いているのは夏晴亮だけだった。周りを見渡しても、彼女以外は呆れ顔ばかりで。
「死なない毒だったのですか?」
「ああ。だから犯人がはっきりするまでじっくり待つことにした。こちらには毒見師もいて安全だからな」
「そうなのですか」
よかった。宮廷内に任深持を殺そうとする者はいなかったのだ。しかし、中途半端な毒をもって自身を危険な位置に落とすとは、上司に花を持たせたいにしては待っている結果が重すぎる。任明願が肩を落とした。
「第二皇子は不器用で、何をしても貴方より目立たない。次期皇帝にもなれない。誰からも期待されていないのです。だから、貴方の評価が下がれば」
「子風の評価が上がるとでも? とんだ茶番だ」
「そんな……そんなことは、分かっています」
任明願は頭が悪いわけではない。第一皇子を陥れたところで、第二皇子の実力が上がるわけがないことくらい、傍にいる自分がよく理解している。それでもなお凶行に走る程追い詰められていたということか。
「お前が第二皇子の力を信じなくてどうする。すべきだったのは、毒を盛ることではなく、どうしたら子風が成長出来るか一緒になって考えて行動することだったな」
「はい。申し訳ありませんでした……」
彼の心情を考えると、どうにもすっきりしない幕引きとなった。
「あの、任先輩はどうなるのですか?」
いくら死なないといっても毒は毒。彼の行為は罰せられるべきだ。第二皇子を想ってしでかした過ちのために、彼は第二皇子から離れなければならないだろう。
「お前は重罪を犯した。よって、宮廷追放とする」
「……はい」
俯いた任明願に夏晴亮は何も言えない。励ましの言葉を投げつけても、ただの気休めにしかならないのだ。
「第二皇子のことを、どうぞ宜しくお願い致します」
最後まで自分のことではなく上司のことばかりだ。夏晴亮は心が痛くなった。