後宮毒見師伝~正妃はお断りします~
呼び出し
全員が大慌てで作業をする。半刻してどうにか形になり、正妃の到着を待つばかりとなった。
「正妃はどんな方なんでしょう」
「分からないわ。多分、上の人しか知らないと思う。今朝聞いたって言ってたけど、正妃だったらもっと前もって決まってるはずだし」
馬星星も納得のいかない速さで事が進んでいるらしい。困ったことだ。しかし、宮女が文句を言える立場ではない。指示されたことをどうやって滞りなく終わらせるか。これに尽きる。
「いらしたわ。みんな拱手して」
「はい」
宮女が通りの両側に並び、一斉に拱手する姿は実に圧巻だ。そこへ牛車が一台やってきて、中から女性が降りてきた。
「王美文様、ようこそいらっしゃいました」
「お忙しいのに、皆様有難う御座います」
王美文が一言礼を言い、宮女の道を歩き出す。頭を下げているため、顔は見えないが立派な漢服を身に着けているのは分かる。第一皇子は身分相応な相手を連れてきたらしい。夏晴亮は安心した。
「あら」
夏晴亮の近くまで来た王美文が声を漏らす。
「貴方が……ふふ、そうなの……」
誰に言ったのか、すぐ真上から聞こえた声はなんだか肌寒い風を伴っていた。
正妃が去り、ようやく緊張が解ける。これで終わりではない。旅の疲れを癒してもらうため、簡易な食事と湯あみの支度に取り掛からなければ。
「各自別れて準備を」
「承知しました」
夏晴亮が持ち場に行こうとしたところへ、女官が呼び止めた。
「夏晴亮」
「はい」
「貴方は一刻後、任深持様のお部屋へ行きなさい」
「任深持様のお部屋へ? ああ、毒見ですね。承知しました」
女官はやや暗い顔をさせて続けた。
「王美文様もいらっしゃいます。くれぐれも失礼のないように」
「はい」
忠告された夏晴亮は掃除の仕事を手早く終え、身なりを精一杯整えた。事情を知った馬星星も協力してくれ、控えめながら化粧も施した。これで出来る限りのことはした。
「よし、失礼しないように失礼しないように」
一緒にいるという彼女がどういう人物か分からないので、怒りを買わないようあまり話さないで毒見の時間を終わらせたい。
指定された時刻になり、任深持の部屋の扉を叩く。
「夏晴亮です」
「入れ」
ゆっくり開けると、いつもの光景に正妃が追加された。ここでようやく顔を見ることが出来た。煌びやかな髪飾り、華やかな顔立ち、正妃にふさわしいと思う。
「王美文よ。よろしくね」
「夏晴亮です。こちらこそ宜しくお願い致します」
王美文が夏晴亮の手を取る。
「ずっと会ってみたかったの」
そう言って正妃が怪しく笑った。
「正妃はどんな方なんでしょう」
「分からないわ。多分、上の人しか知らないと思う。今朝聞いたって言ってたけど、正妃だったらもっと前もって決まってるはずだし」
馬星星も納得のいかない速さで事が進んでいるらしい。困ったことだ。しかし、宮女が文句を言える立場ではない。指示されたことをどうやって滞りなく終わらせるか。これに尽きる。
「いらしたわ。みんな拱手して」
「はい」
宮女が通りの両側に並び、一斉に拱手する姿は実に圧巻だ。そこへ牛車が一台やってきて、中から女性が降りてきた。
「王美文様、ようこそいらっしゃいました」
「お忙しいのに、皆様有難う御座います」
王美文が一言礼を言い、宮女の道を歩き出す。頭を下げているため、顔は見えないが立派な漢服を身に着けているのは分かる。第一皇子は身分相応な相手を連れてきたらしい。夏晴亮は安心した。
「あら」
夏晴亮の近くまで来た王美文が声を漏らす。
「貴方が……ふふ、そうなの……」
誰に言ったのか、すぐ真上から聞こえた声はなんだか肌寒い風を伴っていた。
正妃が去り、ようやく緊張が解ける。これで終わりではない。旅の疲れを癒してもらうため、簡易な食事と湯あみの支度に取り掛からなければ。
「各自別れて準備を」
「承知しました」
夏晴亮が持ち場に行こうとしたところへ、女官が呼び止めた。
「夏晴亮」
「はい」
「貴方は一刻後、任深持様のお部屋へ行きなさい」
「任深持様のお部屋へ? ああ、毒見ですね。承知しました」
女官はやや暗い顔をさせて続けた。
「王美文様もいらっしゃいます。くれぐれも失礼のないように」
「はい」
忠告された夏晴亮は掃除の仕事を手早く終え、身なりを精一杯整えた。事情を知った馬星星も協力してくれ、控えめながら化粧も施した。これで出来る限りのことはした。
「よし、失礼しないように失礼しないように」
一緒にいるという彼女がどういう人物か分からないので、怒りを買わないようあまり話さないで毒見の時間を終わらせたい。
指定された時刻になり、任深持の部屋の扉を叩く。
「夏晴亮です」
「入れ」
ゆっくり開けると、いつもの光景に正妃が追加された。ここでようやく顔を見ることが出来た。煌びやかな髪飾り、華やかな顔立ち、正妃にふさわしいと思う。
「王美文よ。よろしくね」
「夏晴亮です。こちらこそ宜しくお願い致します」
王美文が夏晴亮の手を取る。
「ずっと会ってみたかったの」
そう言って正妃が怪しく笑った。