後宮毒見師伝~正妃はお断りします~
貴方しかいらない
「え、ええと、王美文様は私のことをご存知なのですか?」
正妃の言うことについていかれず、任深持に助けを求める。任深持がわざとらしく咳払いした。
「まあ、成り行きで話すことになっただけだ」
「あらあ、そんなことおっしゃるのかしら」
急に強気になった彼女に第一皇子はたじたじになった。彼に強く言える女性がいるなんて。物珍しい景色に少し面白くなる。
「ちょっと聞いてくださらない?」
「王美文。それはあとでいくらでも時間がある」
「ああ。そうでした。どうぞ」
王美文が下がり、代わって任深持が夏晴亮の前に立った。
「夏晴亮」
「はい」
任深持が徐に跪いた。このような仕草でも実に優雅だ。服の裾から箱が取り出される。その中にはいつぞやの贈り物たちとは明らかに違う、正妃にも劣らない上品で美しい髪飾りが入っていた。
「正妃にはならないと言った。だから、正妃を立てた。これで私の世間体とやらは保たれる。お前も安心だろう」
急な正妃の知らせだとは思ったが、こんな理由が隠されていたとは。夏晴亮が何も言えないままでいると、任深持が真摯な眼差しを向けてきた。
「どうか、これを受け取って、私の側室になってほしい。側室ならばどんな身分でも誰も気にはしないから。側室は貴方しか持たない。私は正妃にも触らない。貴方しかいらない」
「任深持様……」
好かれているとは思っていた。しかし、物珍しさからだと思っていた。ここまで真面目に、本気で考えてくれていたとは。夏晴亮の心が打たれる。自分に恋人など、結婚など無縁だと思っていた。
ちらりと奥にいる王美文を見遣る。驚く様子も無く、笑顔で手を振られた。事情は知っているらしい。
──どうしよう。側室なら、身分は気にしなくていいのね。じゃあ、あとは私の気持ちだけってこと……? 私は任深持様を嫌いじゃない。贈り物も嬉しかった。でも、結婚って言われたら。
「ええと」
迷いが生まれる。こんな状態で結論を出していいものか。
「夏晴亮。どうか……」
正妃も見ている前で。と思ったら、王美文が片手を挙げた。
「阿亮! いっちゃえいっちゃえ!」
──ええッなんかすごい盛り上がってる! 正妃と側室ってこんなあっさりしてる感じなの?
「うううん……」
「もう目当ての相手がいるのか?」
「いないです。作るつもりもなかったので」
「それなら、勢いでいい。お試しでもいい。私の手を、取ってはくれないだろうか」
心が温かくなる。嬉しくなる。夏晴亮は自分の胸に両手を当てて考える。
──何も持たない私にはもったいない方。でも、でも、それでも。
「では……宜しくお願いします」
震えて待つ手に、夏晴亮が自分のそれを重ねた。
正妃の言うことについていかれず、任深持に助けを求める。任深持がわざとらしく咳払いした。
「まあ、成り行きで話すことになっただけだ」
「あらあ、そんなことおっしゃるのかしら」
急に強気になった彼女に第一皇子はたじたじになった。彼に強く言える女性がいるなんて。物珍しい景色に少し面白くなる。
「ちょっと聞いてくださらない?」
「王美文。それはあとでいくらでも時間がある」
「ああ。そうでした。どうぞ」
王美文が下がり、代わって任深持が夏晴亮の前に立った。
「夏晴亮」
「はい」
任深持が徐に跪いた。このような仕草でも実に優雅だ。服の裾から箱が取り出される。その中にはいつぞやの贈り物たちとは明らかに違う、正妃にも劣らない上品で美しい髪飾りが入っていた。
「正妃にはならないと言った。だから、正妃を立てた。これで私の世間体とやらは保たれる。お前も安心だろう」
急な正妃の知らせだとは思ったが、こんな理由が隠されていたとは。夏晴亮が何も言えないままでいると、任深持が真摯な眼差しを向けてきた。
「どうか、これを受け取って、私の側室になってほしい。側室ならばどんな身分でも誰も気にはしないから。側室は貴方しか持たない。私は正妃にも触らない。貴方しかいらない」
「任深持様……」
好かれているとは思っていた。しかし、物珍しさからだと思っていた。ここまで真面目に、本気で考えてくれていたとは。夏晴亮の心が打たれる。自分に恋人など、結婚など無縁だと思っていた。
ちらりと奥にいる王美文を見遣る。驚く様子も無く、笑顔で手を振られた。事情は知っているらしい。
──どうしよう。側室なら、身分は気にしなくていいのね。じゃあ、あとは私の気持ちだけってこと……? 私は任深持様を嫌いじゃない。贈り物も嬉しかった。でも、結婚って言われたら。
「ええと」
迷いが生まれる。こんな状態で結論を出していいものか。
「夏晴亮。どうか……」
正妃も見ている前で。と思ったら、王美文が片手を挙げた。
「阿亮! いっちゃえいっちゃえ!」
──ええッなんかすごい盛り上がってる! 正妃と側室ってこんなあっさりしてる感じなの?
「うううん……」
「もう目当ての相手がいるのか?」
「いないです。作るつもりもなかったので」
「それなら、勢いでいい。お試しでもいい。私の手を、取ってはくれないだろうか」
心が温かくなる。嬉しくなる。夏晴亮は自分の胸に両手を当てて考える。
──何も持たない私にはもったいない方。でも、でも、それでも。
「では……宜しくお願いします」
震えて待つ手に、夏晴亮が自分のそれを重ねた。