後宮毒見師伝~正妃はお断りします~
何が違うの
「普段と変わらないように見えました」
「私もです」
王美文が閉じられた扉を見つめる。
「いいえ、馬牙風の隈がいつもより薄かったわ」
「それだけ!?」
「それと、体の厚みも小指一本分ふくよかだった」
「服の厚みでは!?」
普段と違うらしい馬宰相より王美文の観察眼の方が恐ろしくなってきた。王美文が首を振る。
「いいえ、服ではなくてよ。きっと彼に何かあったんだわ」
「何か、ですか」
真剣な姿に、彼女の本気が窺える。馬宰相を一番観察している彼女だから、言うことが間違っているとは言い切れない。
「では、私も馬宰相にお変わりがないか、お会いした時観察してみます」
「宜しくお願いね。変わったことがあったら報告して。無くても報告して」
「は、はい」
「では気を取り直して」
櫛を手にした王美文が微笑む。そういえばそんなことを言っていた。すっかり忘れていた夏晴亮だったが、せっかくのお誘いなので乗ることにした。後ろを向くと、丁寧に髪飾りを外され、髪の毛に櫛が通された。
「この髪飾り、任深持様がくださった物かしら」
「そうです。とても立派ですよね」
「そうねぇ。たしか、元々彼が皇后から頂いたのではなかったかしら」
「え! そんな大層な物を……!」
毎日平然と付けていた自分が恐ろしい。机に置かれているそれが眩しく見えてくる。明日から付けられるだろうか。
「ふふ、それだけ貴方が大切で、特別なのよ」
「……大事にしてくださっているのは分かります」
「今はそれで十分よ。時間はたっぷりあるんだから、ゆっくり深めていったらいいわ」
あっという間に新しい髪型が完成した。身分の高い女性でも自ら髪の毛を整えることがあるのか。随分手慣れた様子に感心する。
「有難う御座います。素敵です」
「うふふ。阿亮とても可愛らしいから、いつかやってみたいと思っていたの。これからもたまにさしてもいいかしら」
「はい。是非」
和やかな雰囲気で夕餉の時間が終了した。別れ際、王美文が念押しする。
「馬牙風の件、くれぐれもよろしくね」
「分かりました」
部屋に戻り、馬星星とも別れた夏晴亮が先ほどの言葉を反芻する。任深持に相談しようと思って首を振る。王美文が違和感を感じただけで、他の人間は皆気付かなかった。それに、おかしなところがあるなら、一緒にいる任深持自身が一番分かっているだろう。
「私もです」
王美文が閉じられた扉を見つめる。
「いいえ、馬牙風の隈がいつもより薄かったわ」
「それだけ!?」
「それと、体の厚みも小指一本分ふくよかだった」
「服の厚みでは!?」
普段と違うらしい馬宰相より王美文の観察眼の方が恐ろしくなってきた。王美文が首を振る。
「いいえ、服ではなくてよ。きっと彼に何かあったんだわ」
「何か、ですか」
真剣な姿に、彼女の本気が窺える。馬宰相を一番観察している彼女だから、言うことが間違っているとは言い切れない。
「では、私も馬宰相にお変わりがないか、お会いした時観察してみます」
「宜しくお願いね。変わったことがあったら報告して。無くても報告して」
「は、はい」
「では気を取り直して」
櫛を手にした王美文が微笑む。そういえばそんなことを言っていた。すっかり忘れていた夏晴亮だったが、せっかくのお誘いなので乗ることにした。後ろを向くと、丁寧に髪飾りを外され、髪の毛に櫛が通された。
「この髪飾り、任深持様がくださった物かしら」
「そうです。とても立派ですよね」
「そうねぇ。たしか、元々彼が皇后から頂いたのではなかったかしら」
「え! そんな大層な物を……!」
毎日平然と付けていた自分が恐ろしい。机に置かれているそれが眩しく見えてくる。明日から付けられるだろうか。
「ふふ、それだけ貴方が大切で、特別なのよ」
「……大事にしてくださっているのは分かります」
「今はそれで十分よ。時間はたっぷりあるんだから、ゆっくり深めていったらいいわ」
あっという間に新しい髪型が完成した。身分の高い女性でも自ら髪の毛を整えることがあるのか。随分手慣れた様子に感心する。
「有難う御座います。素敵です」
「うふふ。阿亮とても可愛らしいから、いつかやってみたいと思っていたの。これからもたまにさしてもいいかしら」
「はい。是非」
和やかな雰囲気で夕餉の時間が終了した。別れ際、王美文が念押しする。
「馬牙風の件、くれぐれもよろしくね」
「分かりました」
部屋に戻り、馬星星とも別れた夏晴亮が先ほどの言葉を反芻する。任深持に相談しようと思って首を振る。王美文が違和感を感じただけで、他の人間は皆気付かなかった。それに、おかしなところがあるなら、一緒にいる任深持自身が一番分かっているだろう。