後宮毒見師伝~正妃はお断りします~
幸せ者
「出発は明後日だ。各々準備を頼む」
「はッ」
任深持の言葉に気合の入った返事が聞こえてくる。彼らは自国の戦争こそ経験は無いものの、地方の争いごとや同盟国の戦争の手助けに出陣したこともある。戦果は上々、頼もしい面々である。
ただ、今回の相手の力が全く予想出来ないのが悩みの種だ。超国に飛び込んで戦争になり軍勢が足りないとなれば、敗戦の二文字がこちらを襲うだろう。こちらの目的は勝つことではない。そこを見誤ってはならない。
「任子風様にはお知らせしたのですか?」
「ああ。泣いて詫びていた」
「泣いて……」
一度だけ見かけた彼の姿を思い起こす。一宮女にも臆す態度は争いごとには向いていないかもしれないが、女相手に強く出ないと考えれば優しい性格とも受け取れる。
──それとも、女性が苦手、とかかな。ご本人とお話してみないと分からないや。
「一緒に軍を率いることが出来ず申し訳ないと言っていた」
「そうですか……でも、宮廷に残ってここをお守りするのもお役目の一つだと思います」
任深持が目を細める。
「ありがとう。子風に会ったら、そう言ってやってくれ」
「はい」
部屋に戻る際、ちょうど任子風とすれ違った。拱手し合っていたら任深持に目配せされたので、先ほどのことをそのまま伝えたら泣かれてしまった。繊細な第二皇子にも、早く平穏な日々が来ることを望む。
「亮亮、私やっぱり」
「馬先輩、これは私が決めたことなので。私は自分で精いっぱいなのでお守りすることも出来ません。それに先輩に何かあったら、私、どうにかなってしまいます」
雨が常に傍にいる夏晴亮と違い、軍人でも剣の修行をしたわけでもない宮女では、攻撃に遭えばたちまちやられてしまう。
「うん、ごめん。すぐ帰ってきてね。私だって亮亮が大切なんだから」
「はい」
「着替えは? 旅の食事も口に合うか心配だし」
大事にしている妹が自分と離れて旅に出るとあって、馬星星の心配は尽きない。
「大丈夫です。ここに来るまではお腹空いた時は雑草でも食べていたんで、口に合わない食べ物は無いです」
「ううう、亮亮には幸せになってほしい……!」
ぎゅうぎゅうに抱きしめられていると、後ろから雨も夏晴亮にくっついてきた。
「亮亮は今十分幸せです」
「亮亮~ッ!」
正直に答えると、もっと力強く抱きしめられた。
「はッ」
任深持の言葉に気合の入った返事が聞こえてくる。彼らは自国の戦争こそ経験は無いものの、地方の争いごとや同盟国の戦争の手助けに出陣したこともある。戦果は上々、頼もしい面々である。
ただ、今回の相手の力が全く予想出来ないのが悩みの種だ。超国に飛び込んで戦争になり軍勢が足りないとなれば、敗戦の二文字がこちらを襲うだろう。こちらの目的は勝つことではない。そこを見誤ってはならない。
「任子風様にはお知らせしたのですか?」
「ああ。泣いて詫びていた」
「泣いて……」
一度だけ見かけた彼の姿を思い起こす。一宮女にも臆す態度は争いごとには向いていないかもしれないが、女相手に強く出ないと考えれば優しい性格とも受け取れる。
──それとも、女性が苦手、とかかな。ご本人とお話してみないと分からないや。
「一緒に軍を率いることが出来ず申し訳ないと言っていた」
「そうですか……でも、宮廷に残ってここをお守りするのもお役目の一つだと思います」
任深持が目を細める。
「ありがとう。子風に会ったら、そう言ってやってくれ」
「はい」
部屋に戻る際、ちょうど任子風とすれ違った。拱手し合っていたら任深持に目配せされたので、先ほどのことをそのまま伝えたら泣かれてしまった。繊細な第二皇子にも、早く平穏な日々が来ることを望む。
「亮亮、私やっぱり」
「馬先輩、これは私が決めたことなので。私は自分で精いっぱいなのでお守りすることも出来ません。それに先輩に何かあったら、私、どうにかなってしまいます」
雨が常に傍にいる夏晴亮と違い、軍人でも剣の修行をしたわけでもない宮女では、攻撃に遭えばたちまちやられてしまう。
「うん、ごめん。すぐ帰ってきてね。私だって亮亮が大切なんだから」
「はい」
「着替えは? 旅の食事も口に合うか心配だし」
大事にしている妹が自分と離れて旅に出るとあって、馬星星の心配は尽きない。
「大丈夫です。ここに来るまではお腹空いた時は雑草でも食べていたんで、口に合わない食べ物は無いです」
「ううう、亮亮には幸せになってほしい……!」
ぎゅうぎゅうに抱きしめられていると、後ろから雨も夏晴亮にくっついてきた。
「亮亮は今十分幸せです」
「亮亮~ッ!」
正直に答えると、もっと力強く抱きしめられた。